芋虫ブログ

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ミステリ感想『方舟』(夕木春央)

『方舟』(夕木春央)

 

 

 

 

地震で古びた地下建築物に閉じ込められた若者達。浸水による死のリミットが迫る中、殺人事件が発生。犯人は何故こんな状況で殺人を行ったのか? という本格ミステリ

 


面白かった!

 

この本の面白さは(1)いかにもそそる舞台設定、(2)緻密で論理的な謎解き、(3)素晴らしいラスト の3つある。

 

まずは(1)この舞台設定を思い付いたのが偉い。魅力的な謎はミステリにおいて(読まれるために)一番重要だと思う。

 

次に(2)謎解き部分の緻密さは、ちょっと病的なくらい良く出来ていて、文句のつけようがない。建築物の構造や、小道具の使い方も秀逸。

 

 

 

※ここから微ネタバレあり

 

特に「血を拭うために何故ぞうきんではなくウエスを使ったのか?」に端を発する犯人像の絞り込みは、最初は「そんなんウエスの使い方、ありかよ」と思うんだけど、でも読み返すと確かにそういう建物構造だとちゃんと書いてあるので、納得せざるを得ない。


「何故犯人は現場に爪切りを残したのか?」の部分も、最初は「本命が爪切りじゃない方だなんて本気かよ」と思うけど、これも他に説明のしようがない。

 


※微ネタバレここまで

 

 


そして最後、皆が言っている通り(3)ラストが素晴らしい。この読後感はなかなか味わえない。普通の推理作家には書けないラストだと思う。

 

このどんでん返しは作中の描写だけでは予想できない(と思う)んだけど、
その前段の犯人当てまでがフェアな本格ミステリになっているので、特に不快感は覚えなかった。

 


設定、論理展開、意外なラストの3拍子揃った秀作。