【映画感想4】 『セント・オブ・ウーマン 夢の香り』 ―― 青年の純真さと、老人の気高さ
■この映画を観た理由
学生時代、映画好きの後輩に薦められたので。
■あらすじ
主人公は心優しいアメリカの名門高校生。
しかし実家は裕福ではなく、長期休暇中もアルバイトとして盲目の退役軍人の世話をすることになる。
退役軍人の横柄な態度や身勝手な行動に辟易する主人公だったが、彼と行動を共にするうちに、家族に見放された彼の心の闇、孤独、そして誇りを知っていく。
【公開年】1992年
【視聴時】2015年
【レビュー執筆時】2015年
■感想
非常に映画らしい、良い映画だった。
156分と少し長いので、前半は少々退屈するかもしれない。
不満点はそれくらいだ。品のある良い映画だった。
アル・パチーノ演じる元軍人のキャラクターが素晴らしい。絶望ゆえの自暴自棄。それでも捨てられない未練。品位。
これほど複雑な人間の描写を、一本の映画の中でやってしまうのだから凄い。
対照的に描かれる苦学生の姿も良い。人生を犠牲にしてでも、質の悪い友人を庇おうとする姿。これこそが人間の美学である。
美学は損得に関係しない。むしろ損をすることが大半だ。しかしそれでも、人間には美学が必要だ。
美学を失った人間は獣と同様である。ここに根拠はない。美学とはそういうものなのだ、という映画だ。
元軍人は全てに絶望していた。失敗した人生を想い。生きながらえる意味などないと感じていた。
そんな彼を生きながらえさせたのは、損得ではない。若者の美学だった。
この映画のラストでは(ネタバレ反転→)青年の美学が利益?に繋がる(ここまで)けれど、これは実にアメリカ的だと思う。しかし僕としては、救われるかどうかはさして重要ではない。彼に理解者が居たこと、それが重要だ。
非常に個人的な感想だけれど、この辺の『美学』観は、カサブランカに近いものを感じた。人間性は損得を超えたところに宿る。こういう生き方をしてみたい、と思わせる物語だった。
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突っ走ってしまったが、他の面にも目を向けよう。
まず目につくのはが、この作中の名言の数々だろう。
詳しくは解説サイトを検索してもらうとして、とにかく『ジョン・ダニエル』が格好いい。他にもラストの香水のシーンをはじめ、どれもこれも洒落ている。
どれも映画的な台詞だ。古典的な洒落方と言っても良い。
また、演技も素晴らしい。
盲人を演じるアルパチーノの凄さは言わずもがなだが、真面目そうな青年の演技も良い。『実直』を絵に描いたような青年だ。話の説得力が増している。
それに関連してだが、元軍人が自暴自棄になるシーンは胸にくるものがある。
希望を失った人間はどうなるか。絶望とはどういうものか。
深い悲しみを表現する方法は、何も涙だけではない、ということを学んだ。
実力のある人達が、時間とお金をかけてじっくりと物を作れば良い映画が出来るのだ。
妥協しなければいい。すべての制作活動は、それだけの話なのかもしれない。
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褒めてばかりなので最後に無理やりケチをつけておこう。
「お気楽に映画を観たい」という人には、あまりおすすめしない。
心が暗くなる映画では全く無いが、
156分と長いし、主人公たちの心情を読み取るためには、「ながら見」ではもったいない映画だ。
欲を言えば、じっくりとこの映画に没入して楽しんでもらいたい。*1
それだけの価値のある映画だと思う。人として大事なものが描かれた、美しい物語だった。
*1:何様?