芋虫ブログ

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【映画感想8】 『バタリアン』 ――怖くてキュートなコメディゾンビ映画の傑作、そして衝撃的すぎるラスト

 

バタリアン [DVD]

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■あらすじ
片田舎の医療品保管庫で働く青年・フレディは、興味本位で地下室にある死体の容器を開ける。
すると突然ガスが吹き出し、倉庫内の死体達が激しく動き出した。
事の発覚を恐れたフレディと上司は、何とか死体たちを捕えて火葬場で燃やすことに成功。
一件落着かと思われたが、死体から出た煙は、雨にのって町の墓地へと降り注いでいた。

そうとは知らず、遊びに来たフレディの友人たちが墓場で酒盛りを始め……。

 

 

 

■感想

一言で言うと傑作である。
ポイントは二点あって、まず「コメディ映画として秀逸であること」、次に「ゾンビ映画として異端であること」がある。

 


まずコメディ映画として見てみよう。

第一に、ストーリーがひどく分かりやすい。

冒頭のカットで、青年・フレディが上司と会話をしている。
その会話の中で、

 

・ここが死体も保管してある倉庫であること

・軍が昔、死体を復活させるガスを作ってしまったこと

 

の二点が語られる。

これを観た時点で、視聴者はもう何も考えなくていい。

 

要するに、この建物に死体があって、それがゾンビ化して大変なことになるのだ。

これはそういう映画だ。その説明が最初のカットで完了している。

視聴者は、あとは好きだなけゾンビに怯え、笑うだけでいい。

こうした説明の簡潔さは、コメディ映画では実は重要である。


その後のギャグ要素もいちいち秀逸だ。

コメディ映画に必要な要素を言えば「バカな若者、おっぱい、爆発」だけれど*1、この3つがとてもストレートに登場する。

 

フレディの友人たち(バカな若者たち)は墓地でゾンビに襲われる訳だが、

ゾンビが登場する前から、「深夜の墓で酒盛りをし、ストリップショーを始める」というバカっぷりだ。

正直ゾンビなんかよりコイツラのほうがよっぽど怖いと思うのだが作中にツッコミはなし。

もちろん全裸女子はそのままおっぱいゾンビとなるので、そこも見どころだ。

 


ただ、物語全体を茶化している訳ではなく、例えばグロ可愛いゾンビの造形は実はしっかりしているし、ゾンビ発覚後の若者たちの行動は理にかなっているし、救助隊がゾンビに襲われるシーンなんかはちゃんと怖い。

要するに、キチンと映画を作ったうえで、自覚的にバカをやってるのだ。キチンと作っているからこそバカが栄えるとも言える。

 

本作品は『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』のリメイクであるが、

「本家とは違いコメディという方向で、質の高いものを作ろう」という意欲が伺える。

 

 

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次に、ゾンビ映画としてどこが意欲的かを書こう。

まずはゾンビの生態が特殊だ。

一言で言うと、強すぎる。

 

従来のゾンビと違い、「頭をちょん切る」「ぶつ切りにする」「燃やす」といった物理攻撃は効果がない。

ではどう殺せばいいかというと、殺す手段はない

作中でも「死んでいる者をどう殺せと?」という台詞があるが、まさにその通り。絶対に殺せない。文字通りの不死身である。

 

更にたちの悪いことに、このゾンビは走る。

今でこそ『28日後……』や『ドーン・オブ・ザ・デッド』で走るゾンビも市民権を得たが、本作品の時代にはかなり衝撃だっただろう(しかしコメディ映画なのでマトモに捉えられていたかは疑問)。

 

そして更に恐ろしいことに、このゾンビには知性がある。

待ち伏せや騙し討ちはもちろん、公衆電話を用いて警官のふりをして町の外に電話をかけることすらした。

どのくらいの知能があるのかはっきりとは描かれていないが、少なくとも5歳児以上の知能はあるようだ。

 

耐久性・肉体・知能というあらゆる点で人間を超越したこのゾンビは、

「あらゆるゾンビ映画の中でも最強」なのではないか、と思う。


また、ゾンビがグロ可愛く、個性的である点も特徴的だ。
特に「タールマン」のデザインが最高。
芸術家のデザイナーを抱えていたとのことで、興行的ヒットの大部分は彼の仕事によるものだろう。

 


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そして、ラスト。

夢も希望もなく、伏線もなく、唐突で、馬鹿らしくて、スケールだけはやたら大きいこのラスト。

「じゃあこの2時間は何だったんだよ」と思うしかないこのラストが僕はとても好きだ。

 

終盤までこの映画は、「まともなストーリーとお馬鹿な要素のバランスがちょうど良い」ままで進むのだが、

このラストで急激に「お馬鹿」な方向へと振れる。

このあっけなさも好きなのだ。

 


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そういう訳で『バタリアン』は。

頭カラッポに楽しめるコメディ映画であり、

意外と緻密に作られた特殊なゾンビ映画であり、

そして屈指の『衝撃のラスト』映画である。*2

 

 

既に歴史上の一作となりつつあるが、純粋に楽しめる作品なのでぜひ観てほしい。

 

 

 

※おまけ:『バタリアン』タイトルバック映像。主題歌が秀逸。


バタリアンThe Return of The Living Dead

 

 

 

*1:今考えました

*2:この映画が衝撃のラストであることを知る者は少ない気がする