【映画感想2】『地獄』(中川信夫監督) ――見世物小屋的な面白さ
■この映画を観た理由
どこかであらすじを見て、面白そうだったので。
■あらすじ
一般的な大学生・四郎は、クラスメイトが運転する車でひき逃げ事故に遭遇してしまう。それを契機に、「婚約者の事故死」「被害者遺族の復讐」など次々と不幸が降りかかり、四郎も含めて登場人物は全員死亡。何らかの形で罪を犯していた彼らは、全員地獄送りとなる。
婚約者が生前妊娠していた事を知った四郎は、水子となり地獄に落ちているらしい我が子を探して地獄をさまよう。
【公開年】1960年
【視聴時】2015年
【レビュー執筆時】2015年
■感想
面白かった!
この映画は重厚なテーマを楽しむ類のものではなく、チープな作りの『地獄』の描写を、下世話な俗悪趣味をもって観る映画である。見世物小屋を覗くかのような、醜い好奇心を持って視聴に望むと良い。
前半はこの世の不幸、後半は登場人物たちが訪れる地獄の不幸が描かれている。
まずこの、中盤に登場人物が「全員」死ぬという展開! これは流石に他に観たことがない。中盤に全員! これだけでも観る価値がある。
序盤の現世パートは、極端な性格の人間がわらわらと登場してきて面白い。特に友人の田村! まさに悪魔のような男である。
シーンで言うと、養老院(老人ホーム)の住人には安い魚を食わせて、自分たちは旨い肉を食いながら酒飲んで歌い踊るシーンが最高。最高に悪趣味である。
1960年という時代のせいでもあるだろうが、役者の演技は一様に仰々しく、演劇のようだ。それも非現実的で、過激で、素直に楽しめる。
これらの要素は、しかし何故だか不快感はなかった。おそらくリアリティが無いからだろう。*1
そして終盤の地獄のシーン。阿鼻叫喚の嵐なのだが、こちらも不快感はあまりない。グロ描写も、どう見ても作り物なので怖くはない。昔ながらのお化け屋敷のようだ。「続いては○○地獄だ!」と順々に見せられる造りからしても、視聴者の俗物根性に訴えかけている映画なのだと想う。
この映画の何が面白いのかを考えていくと、それはカタルシスなのではないかと思う。
作り手は、露悪趣味を隠さずに作りたい物を作っている。エンタメ精神も忘れていない。
それに対して視聴者は、倫理観などかなぐり捨ててそれを見る。そうした素直な好奇心による興奮。カタルシス。爽快感。
最も原始的な楽しみが味わえる映画だった。
*1:これは主観なので、貴方がどう思うかは、正直言ってあまり自信がない